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成田舞の写真を見ていると、その世界に自分の過去の経験を重ね合わせたり、忘れていた記憶が引っ張り出されたりと、見る人の記憶に触れる力に引き込まれる。さらには途中で見てはいけないものを見ているような感覚にもなる。そんな恐怖感も持ち合わせていることが成田舞の写真の特徴だ。そして「UNITEDH2Oヨウルのラップ」や「アメフラシと馬鹿力」等に見られる独特な言葉選び。一般的には言葉を扱う職種ではないからこそ、その言葉選びに新しい才能に触れた感覚になる。
SPACE CADETをはじめる前から知り合う機会に恵まれ、写真についてじっくり聞いたことがあった。話を聞いた時に種明かしをされた感覚もなく聞く前よりも写真の魅力は増した。その時の事は今でも鮮明に覚えている。あの日の話を文章として残しておきたい。更に突っ込んだ内容も聞いてみたい。そんな思いで改めてインタビューを行った。 成田舞インタビュー写真01

SPACE CADET(以下SC):月並みな質問ですが、写真を始めたのはいつからなんですか?

成田舞(以下MN):大学の一回生時に写真の授業がありました。一通りモノクロの撮影、現像、プリントを学ぶ授業が3、4ヶ月くらいあって、授業で習ってからは、暗室を自由に使えるようになりました。カラーの暗室は三回生からしか使えなかったんですけどね。二回生の時に、ポラロイドを使って展示をしました。ロウで形成したフレームを作ってポラロイドを額装したり。

SC:大学二回生から、自発的に展示なんてアクティブですね。

MN:京都には貸しギャラリーが多いみたいで、学生のうちから展示をする人が多いんですよね。私が初めて二回生の時に展示したのは、大学の先生からの紹介で、「成田さん、ギャラリー空いてるけど、どう?」みたいな感じで。そこから、展示に繋がりました。 作品を売るとかじゃなくて、とにかく作品を見せるっていう感じの展示でした。完成度としたら買ってもらえるモノじゃなかったけど、売る事を意識して展示しても良かったのかもって思いますね。

SC:学生時代からアクティブだし、写真が身近にあったみたいですが、卒業してすぐ写真を仕事にって感じじゃなかったんですよね?

MN:卒業してすぐロンドンに8ヶ月くらい、語学留学に行きました。夕方までは授業があったけど、その後は自由な時間があったので、お金はバイトでまかないながら、結構遊んでましたねー(笑)

SC:留学、羨ましいです(笑)ロンドン留学時代があるなんて良いですね。ロンドンでは、写真は撮ってました?

MN:ニコンのFM2、ポラロイド、水中で撮れるトイカメラを持って行ったんですけどあんまり、写真を撮ってはいませんでした。一回生の写真の授業があってから、四回生の夏前くらいまで、暗室には毎日のように入っていたんですけど、卒業制作を写真以外で作ろうと思い彫刻みたいな立体物を作ってた事もあって、その流れのまま、ロンドンでもあんまり写真はとってませんでした。8ヶ月間で10本撮ってないくらいです。撮り過ぎて、現像代が大変になってしまうよりは、絵を描いたりして、ネタ探しって感じで過ごしてました。

SC:その後、日本に帰ってくるんですよね?まだ、その時は写真を職業にしようとはしてなかったですか?

MN:帰って来てから就職活動をするんですけど、その時は写真関係では就職を考えていなくてデザイン事務所などを探してました。それで結局、雑貨屋さんに就職しました。

SC:雑貨屋さん?

MN:設計事務所が母体の雑貨屋さんで、レジカウンターの中にMacがあるという職場でした。接客の合間に、お客さん居ないかなーって確認しながら、イラレでチラシやDMを作ってました。その頃にリトルモアブックス写真集公募展のフライヤーを見つけて、よし出してみよう!って思ったんですよね。そしたら、松本弦人賞の連絡がきて。それで、翌年は大賞を狙おうじゃないか!と思って応募したら、いけました(笑)

SC:それ、ほんとにすごいですよね。写真を撮る人からしたら、大きな出来事だと思うのですが、 今も、もしかして、写真一本でいこう!って気はしてないですか?

MN:いや、今は写真をやろうって気はしてますよ。

SC:それって、大賞受賞は大きいですか?

MN:大きいですね。写真で行っていいんだよって後押しされた気がして。単純に嬉しかったし、やっぱり続けてきたのは、これだったんだなーって感じですね。 大学時代に、友達や先生に写真を褒めてもらえる度に嬉しくってやる気が出て、色々試してみようって、暗室に入って写真で新しいことを試すのも楽しかったし、写真集を見たり、写真の講義を聞いたりしても、写真の性格ってこういう事なんだ!とか、なるほどっ!て思う事が多かったんです。
ただ、好きだし面白いんだけど、横に置いておこうというか。趣味とか、ずっと付き合っていけるものだなっていう感覚で。写真を仕事にしてお金を稼いでいくという意識は、大賞を頂くまでは殆どありませんでした。大賞を貰った時に、撮影のお仕事の依頼があったり。審査員をされていた祖父江慎さんがブックデザインをされた金原ひとみさんの「TRIP TRAP」という短編集の表紙に写真を使ってくださったりと2009年の年末から写真のお仕事が少しずつ入るようになりました。その翌年にご縁があって「服飾手帖」という雑誌の特集ページで初めて人物撮影のお仕事をさせてもらえたり。 その中で、人を撮るのって面白いなっていう感覚が生まれてきて。

SC:人撮るの、あんまり好きじゃなさそうって思ってました。

MN:今まで、人を撮るのってあんまり得意じゃなかったんですけど、機会が増えていくうちに面白いなあと思うようになって。人を撮れたら、お仕事を通して自分の好きな人にも繋がっていけるチャンスが増えるんじゃないかなと期待が膨らんできてるところです。それで、2010年の5月くらいに勤めていた職場を辞めてポツポツと撮影の仕事をしたりしていました。

SC:以前に、仕事辞めてから大学でプリントをしていたって言ってませんでしたっけ?

MN:以前に、大学の暗室でプリントさせてもらった事がありました。それから色々あって、大学の暗室に勤めるようになったんですよね。週三回の定期的な仕事で。昨日は初出勤でした!

SC:あれ?今は大阪の写真スタジオに勤めてるんじゃなかったでしたっけ?

MN:そこのスタジオは忙しい時と割と余裕のある時と差がある所なので、不定期に働かせてもらっています。

SC:そーなんですね。すごい良い感じに、写真一本になっていってますね。

MN:このまま良い感じに続けていけたらなと思っています。

成田舞インタビュー写真02

SC:写真も良いし、こんなに上手くいっている人って、多くは居ないと思うんですけど、 作家性の強い写真家って儲かってないなーという感じがしてるんですが、どうですか?

MN:今は、自費で展示を行うのは控えています。できないというか。グループ展などに声をかけてもらったときに参加したりしながら活動しています。 あと、同年代のデザイナーやアーティストの友達に、売れたら撮影の仕事ちょうだいねっていって撮影協力したりしています。冗談みたいに話してるけど、将来的に仕事に繋がったら良いなーと思ってます。 単純にその人の作品が好きだって言うのもあるんですけどね。

SC:そういった繋がりって、既に実を結んでいるところがあるんじゃないかなーって「歩きながら考える」の編集後記を読んで思いました。(※成田さんといしいしんじさんの出会いに偶然の力を感じたと記載されていました。) 成田さんてそういう力があるんだなーって。

MN:あれは私も、あんな風に書いてくれてるの知らなくて、読んでびっくりしました。好きなものは口に出しておいた方が良いなーって思いました。

SC:スタジオ、暗室の仕事、2つを抱えながら、フリーの仕事もして、良い感じに繋がって行きそうですね。 今後成田さんがどうなって行くのか楽しみです。 あと、機材のことについても聞いておきたいんですけど。

MN:ずっとニコンのFM2なんですよ。大学生のころからずっとです。レンズは単焦点の50mmで、ほんと、大学生が最初に買うようなセットですね。

SC:レンズの保護フィルター付けてないんですね。

MN:なんかフィルターつけるのが気持ち悪くて。自分はメガネかけてるんですけどね(笑)それで、フィルムはポートラのVCです。NCもつかったんですけど、VCの増感が一番しっくりきて。今日はエクターが入ってます。コダックゴールド400とかも使いますよ。

SC:ずっとFM2だけど、大きく引き延ばしたいなとか、他のカメラ使いたいなとか、思うことはないんですか?

MN:大学の機材が借りれそうで、4×5が使えるかもしれなくて。今はあんまり触れてないんですけど…。あと、最近HOLGAで撮ってみたんですけど、全然HOLGAダメだーって感じで。前から中判は使いたいなーって思う気持ちはあるんですけどね…。

SC:機材のことは聞いとかなきゃって思ってたんですけど、成田さんの場合、そんな小さなこと聞かなくて良いのかなっていう気分になりますね。あんまり機材に執着がなさそうですし(笑)

MN:FM2に愛着はあるけど、これじゃなきゃ駄目ってことはないし結構、色々なカメラで撮った写真を混ぜて作っているので、その時手元にあったもので撮ることもあるし、撮影するシチュエーションやテーマに合った機材を選んだりとか、そういう感じですね。 だから、リトルモアブックスの公募展に出した時は、うまく言えないけど写真の画質とかテクニカルな部分に重きを置いている人には、写真を馬鹿にしてるのかって思われたり、怒りに触れてしまうかもしれないなという思いもありました。そんな世界をひっくり返すようなものを作ったわけでもないのですが…。
写真を、画像とかイメージっていう風に扱っているのに近い感覚があって。縦横比の差や、画質の違いや、ドットの見え方だったり、フィルムの違いとか、そういうのが、最終的に混ざってる状態で面白いものがあったら良いなという思いで編集をしていたところがありますね。イメージだけで選ぶというか。 現実的に展示するときに携帯やフィルムで撮った違いとか、物理的に色んな支持体やらフォーマットやらが混ざってる、その効き目みたいなものが見えてくるのかなと思いますね。また、そういうものを見てみたいなという興味が自分の中にあります。だから混ぜて作ることが多いんですよね。

SC:一般的な写真集や展示を見ると、フォーマットを決めてたり、すべて同じ構図だったりって言うのは多いですよね。

MN:もちろん、その面白さにも魅力は感じます。「アメフラシと馬鹿力」というZINEは、L版サイズの写真を並べて作っています。大事にしていることは、シリーズであることを意識しすぎて、それによって窮屈になってしまうよりその時の見たいとかやりたい事とか、やりながら偶然出て来た面白い事を優先したいなっていうのはありますね。それって、最終的にまとまんなかったり、危険なことでもあると思うんですけどね。

SC:成田さんは色々やっても、まとまりそうな気がしますね。 その、結果バラバラにならない理由の一つとして、以前に聞かせてもらった、作品を作る際に架空の物語や背景を作っているというのがあると思うんですけど、あれは、なんなんですか(笑)?

MN:ははは(笑) 一枚の写真を見た時に、その写真の外側まで想像させるものって、背景がしっかりしてるんだろうなぁと思って。 偶然そういうものが撮れたっていうんじゃなくて、自分の力で背景を作り込んで行くというか、写真を見てくれた人が、この不思議な世界なんなんだろうって、想像を膨らませられる準備をしておくというか。ほんとにこういうことあったのかもって思ってもらえるように準備をしたいなと。
「ヨウルのラップ」に関しては、現代の昔話っていうのをつくりたいなという思いから制作に至りました。物語を作るって言うのは、毎回やっている訳ではないんですが、ヨウルのラップに関しては、物語みたいなものをにおわせたいなという気持ちがあって。1990年代、それこそ自分が中学生だったくらいの現代神話、日本昔ばなしみたいなものを作りたくて。もしもまだ、もののけがいて変な超常現象が起こるとしたら…とか、現代の神様や闇から出てくる妖怪なんかが居るとしたらそれは一体どんなだろうと想像しながら作りました。物語とまではいかなくとも、制作にあたってバックグラウンドを書き出したり、整理したりっていう作業がありました。それで、以前に写真お見せした時にめちゃくちゃなことを、必死になってお話したんです(笑)

SC:それってメモ書きとかで残ってるのですか?それとも頭の中だけですか?

MN:メモで残してますよ。写真集の出版にあたって、リトルモアの編集の方やデザイナーの方にも理解を深めてもらう為に。写真と文章で構成されている、その文章の中に造語が多数出てくるのでそこを補足するための用語集みたいなものをお渡ししました。

SC:それは、表に出したい訳ではなくて、あくまで背景なんですよね?

MN:写真自体はもちろんですが、写真の組み合わせや、文章と混ざり合った面白さを見てもらいたいので背景はクリアに見せなくて良いかな、と言う気持ちがありますね。言葉って伝わり方がダイレクトなところがあるので、なぞなぞみたいな状態で留めておいた方が、見る人の過去の体験とリンクして写真から想像が膨らむんじゃないかなって思ってます。

成田舞インタビュー写真03

SC:成田さんの写真は、少し怖いものを想像させるところがありますよね。

MN:そうなんですよね…。(笑)どういう写真撮ってるのって言われると、心霊写真みたいな写真としか言えなくて(笑) やっぱり、撮るものって、なんか気にかかってたものというか、怖かろうと、不気味だろうと、美しかろうと、やっぱりそういう気になるモノの集まりで。撮ってプリントしてって作業を、時間をかけてするので、自分にとって興味が無ければ撮っていないし、興味のかたまりですね。愛着や愛情のかたまりにはしたくないなと思っていますが。 あと、サザエさんみたいなものを作りたいなと思っています。毎回大きな出来事も無く平和にお話が終わるけど、何かが起って欲しいという思いを抱いてしまうもの。サザエさんて、実は○○って言う感じに別枠でバッドエンディングな奇妙な都市伝説を噂されたりしてますよね。悪い好奇心みたいな、そういうことに興味があります。

よく子供の頃に鬼ごっこの途中で、さっきまで楽しくみんなと遊んでたのに、転んで膝擦り剥けてひとりぼっちになっちゃって、みんなの流れからポンと外れてしまったような、そういう風に急に次元が変わってしまうような、日常って、すごく危うい状態で保たれているよなっていうか。 私は、幼い頃に父が他界していたり、兄の友達が自殺してしまったりとか、人の死が多かったんですね。昨日と変わらず続くと思っていたことが、ころっと変わってしまう事を経験して。その切り替わりみたいな経験を、他の出来事にも重ねて見てしまうんだろうなと思います。そんなところが多分、怖い事を思い出させるものを作るルーツというか、自分で思うにはそれが関係してるように思います。

SC:僕は昔、洋菓子の箱とかチェルシーのパッケージとか、 怖くて見るの嫌だったんですけど、そういうの思い出しました。 今では見れるし、成田さんの写真も見れるんですけどね。

MN:影絵とかも怖くなかったですか?

SC:そうそう、小説の挿絵とかも。 過去の怖かった事って、周りに誰か居たとかあんまり鮮明じゃないんだけど、 怖かったなっていうのは、ずーっと記憶に残ってて、ていう。

MN:なんなんでしょうね?

SC:成田さんはそういうとこに興味があったり、好奇心があったりするんですかね?

MN:そうですね。最近思ったのが、友達とか撮っててあって思わずシャッターをきる時って、相手のこと考えてないというか、今の状況良い!面白い!って思ってる瞬間て、相手の魅力も勿論感じてるんですけど、それよりも、自分の好奇心の最たるものって瞬間を残しておこうって感じで、相手の事あんまり考えてなくて。残酷なことしてるよなぁ…。っていうのがあって。これからは、もっと温かいもの作ってみたいなぁって思ったんですよね。

SC:ははは(笑)

MN:反省したんですよ(笑)この写真、制作に使わせてって言う時に相手に申し訳ないと思う事が多くて。私にも、勝手に変な写りの自分の写真を載せられたくないとか、そういう感覚はあるので、ずうずうしいことをしてるよなーっていうのはありますね。残酷なことしてるよなーって。

SC:残酷っていう言葉は成田さんを言い表してる気がしますね。

MN:そうなんです…。写真集のデザインをしてくださった松本弦人さんからこれで行きましょう!という写真集のデータがあがって来たときに、「今この時に突き刺さる感じ」「不謹慎呼ばわりされたいですね」というような言葉がメールのやり取りの中で出てきました。不謹慎て決して良い言葉じゃないけど、私が大学4回生の時に、不謹慎な要素を含んでいるようなものを作りたいと考えていたことを思い出しはっとしました。「さすが、弦人さん!」て感じでした。自分を言い当てられてる気がして。 以前にも、すごい暴力的で強いものを作ろうって話してた事があって、その言葉が出てくるってことは、私ってそうなんだなぁって。前に弦人さんが、私そのものみたいな本を作ろう!とおっしゃっていて、暴力と不謹慎て言葉が出てくるのは、その通りですって感じで…。不謹慎とか、怖いとか、言葉に出していっちゃうと、写真はそうでもないよってうか…。そんなに不謹慎でもないと思うんですけどね…。その辺、写真を言葉にするのって難しいですね。とにかく自分の写真の事振り返ると、私って嫌なやつだよなーって感じです(笑)

SC:成田さんの嫌なところを聞き出してるみたいになってきたので(笑)、これ以上写真集のこと話して先入観を作り過ぎるのも良くなさそうだし、この辺にしときましょうか。とにかく僕は今写真集待ち遠しい!って感じです。

MN:何度も繰り返し眺めて、その度に色んな読み取り方をしながら楽しんでもらいたくて。読んだ人とともに色々な時間を過ごしていける写真集であってほしいなと思います。

成田舞インタビュー写真04

2011年4月