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ユートピックと表現される事の多い細倉真弓の写真からは、
理想の世界を写真の中で作り上げていると受け取れる一方で、
その世界をあくまで俯瞰で見ているような、冷静さや冷たさも感じ取れる。
その冷たさはどこから来るものなのか?何を思いユートピックと言われる表現を行なっているのか? そういった疑問をぶつけてみたいと思い、インタビューを行なった。 細倉真弓インタビュー写真01

SPACE CADET(以下SC):まず、写真を始めたきっかけから聞かせて下さい。

細倉真弓(以下MH):高校生の時にガーリー写真ブームがあったんですよね。それがきっかけで雑誌のHとかロッキンオンとかから出版されていた写真集を京都の丸善で買ってました。思い出深いのが高校3年時の修学旅行がアメリカだったんですが、その時にSTUDIO VOICEの「写真集の現在」を読んで、欲しい写真集をチェックして向こうでJack Piersonの写真集を買ったんですよね。(笑)あとはやっぱり、HIROMIXですね。それで、高校生位から写真を撮り始めていました。

SC:じゃあ、写真部だったんですか?

MH:高校は写真部があったんですけど、ほぼ活動していなくて。その当時は女の子は、みんなコンパクトカメラを持っていたんですよね。BICminiのような2万円くらいのコンパクトカメラで撮っていました。

SC:その時の写真は残ってますか?

MH:どうしたんだろ?(笑) 残ってたとしてもネガ位かな。その後、立命館大学の写真サークルに入りました。そのサークルが無駄にアツくて。あと私のゼミが、現代美術専攻の先生で、卒論で中平卓馬について書きました。卒業が近くなって、就活も一瞬したんですけどね。結局、日芸に編入しました。

SC:立命館から、日芸の大学院に進むのは大変なんですか?

MH:そもそも大学院じゃなく、私は学部への編入を選びました。ちゃんと技術的なところも勉強したいなと思っていたので。

SC:大学生活での大きな出来事ってひとつぼ展(現 1_WALL)入選ですか?

MH:そうですね。それが大きな出来事ですね。あんまり、ひとつぼ入選まではぱっとしなかったですね。

SC:今と結構違うものを撮っていたんですか?

MH:今日その時の写真を持って来たんですよね。

SC:それは見たいです。

細倉真弓インタビュー写真02 細倉真弓インタビュー写真03 細倉真弓インタビュー写真04 細倉真弓インタビュー写真05 細倉真弓インタビュー写真06 細倉真弓インタビュー写真08
(ひとつぼ展入選作品「mapping」2005年 より)
 

SC:初期の作品って良いですね。トーンも色々だし、やりたい事も沢山ある感じがして。

MH:微妙に今のニュアンスがあるけど、今とは結構違うかなと。

SC:一回賞を貰うと俄然やる気が出るものなんですか?

MH:やる気は出ますね。これで写真やってても大丈夫なのかもしれないなという感じにはなりますね。

SC:それでも、やっぱりフリーでやっていこうっていう人は少ないですよね。

MH:私、就職はしましたけどね。2年間出版社のスタジオに。スタジオマンをやってましたよ。当時、アートで食べていこうとか特に思ってなくて。ちゃんと生きてく方法を探してたっていうか、賞を一回貰ったからって、どうにかなるものでもないだろうっていうのが強かったんですよね。割と冷静で。それで色々就活したりして、なんだかんだで出版社のスタジオ勤務になったんです。

SC:どこかでフリーになるきっかけとして、後藤繁雄さんとの出会いがありそうなんですけど、どの位のタイミングだったんですか?

MH:学生の時とは別に、出版社のスタジオ勤務の時もひとつぼ展に入選していて。その時の審査員が後藤さんだったんですよね。グランプリは取れなかったんですが、そこから定期的に写真を見てもらうようになったのが始まりですね。 その頃は、写真に対して結構もやもやするものが自分の中にあって、何を撮ったら良いかも分からないし、撮ってもいまいちしっくりこなくて、どうしようかなという時期でした。

SC:そのもやもやしていたのは、出版社のスタジオを辞めて、STUDIO VOICEなどの仕事をしていた頃もまだあったんですか?

MH:そうですね。出版社の仕事を辞めてから半年くらい間が空いて、その後STUDIO VOICEの仕事をするようになったんですが、その頃もありましたね。

SC:STUDIO VOICEなどの仕事をするようになったきっかけは、何だったんですか?

MH:知り合いから人手が足りないという事を聞いて、それを手伝うようになりました。その時のSTUDIO VOICEでの仕事は本当に今に繋がっているなと思います。「写真集の現在」特集の時なんかは、100冊くらい複写するんですよね。毎月2~3冊は新刊を紹介するし、それで新しい情報も入ってくるし。見るって重要だなって思いました。 その頃までは、『これは何となくいいな』とか『なんかかっこいいな』っていう漠然とした好き嫌いで写真を判断していたんです。でも写真集100本ノックを経て『どうしてこの写真がいいと言われているのか』、『この写真は前の時代の別の写真の引用なんだ』とか『こういう流れがあるから今この写真が評価されているみたい』とか少しだけ客観的に写真を見ることができるようになりました。

SC:それは、一枚一枚の画の善し悪しみたいなものがわかるようになった感じですか?それとも流れや編集を通してのー作品の善し悪しが判断できるようになった感じですか?

MH:一作品としてって感じですね。編集もそうだし一枚としての画もそうだし、両方含めてですかね。

SC:話をしていると細倉さんて情報量が多い気がしますね。

MH:学生の頃って、自分の好きなものばかり見てしまうんだけど、仕事では強制的に見ることになるので、それが逆に良かったですね。

SC:そういう、強制的に写真を見なきゃいけない状況を経験してる人って少なそうですね。その頃はもう自分の中のもやもやは抜けていたんですか?

MH:いや、まだありましたね。でも自分自身もよくわかってないんですけど、それでも撮ってるうちにいい感じになってきてるんじゃないかと徐々に思うようになってきました。
あと、その頃EXPOSEDで、鵜飼君や万代君、菊池君、ひとつぼ展でうつさんと知り合って、その一年後くらいに清澄白川のmagic roomで一緒にグループ展をやったんですよね。STUDIO VOICEで沢山写真を見るっていう時期と平行して。その時に万代君や鵜飼君の写真って今まで自分が「写真ってこういう感じでしょ」って思っていたものと全然違うんだけどすごく格好良くて。結構衝撃を受けました。自分がいろいろ勉強不足だったっていうのもあるんですが。 それで、自分の中で整理をするようなそういう期間がありました。被写体とか何を撮ったら良いのか、絞っていったんですよ。その絞ったものにまだ写真が追いつかない期間が、一番もやもやしていました。けれども、ある日ピッと何となく、言ってたことと写真が一致してくる感覚があって。

SC:段々何かがちょっとずつ変わっていくんですか?

MH:ZINEの表紙の写真にもなっている、堀君が現れたのが大きいですね。

細倉真弓インタビュー写真03

SC:なるほど、良いモデルとの出会いっていうのは大きな出来事なんですね。堀君を撮ることで、こつを掴むというか。モデルとの距離感を見ていても思うのですが、細倉さんの写真からは冷静さや、冷たさを感じます。被写体やユートピックと言われるようなものに対して、冷たい壁みたいなものを感じるんですよね。なのにどうしてそういうものを撮るのかなって思うんです。

MH:そもそもユートピックですか?って言うところもあって。被写体を分類してみると、ヌードがあって、自然物があって、鉱物があって。でもそれを単品で考えるとユートピックでもなんでもないし。どうしてその被写体なんだろうなって考えるときに、例えばヌードを撮るのって、その時の何かが、今ここにある「若さ」みたいなものの記録なのかなって思います。適切な言葉か分からないから「若さ」と言ってしまいますけど。そういったものの記録です。だから若さみたいなものが、美しさや理想的なものと言い換えられるのなら、ユートピックなのかもしないですけどね。

SC:でも、決して中学生とかには興味は行かないんですよね?

MH:最近、中学生や高校生もありかなと思ってるところはあるんですよね。

SC:SPACE CADETにも子供の写真を掲載してますよね。なんで「若さ」に惹かれるんですかね?

MH:見た目の若さということだけではないですね。例えば私が、中身はこのままで見た目が18歳になっても違うんですよね。写真には内面は写らないから、見た目の若さしか写らないけど。

SC:明日どうなってもいいや、みたいな感じですか?

MH:生き様とかでは無いんですけどね。不安定さとかはあるかも。

SC:不安定感の方が、若さって言葉よりしっくりくる感じあります。

MH:不安定さはあるかもしれない。最近、三島由紀夫が良い事を言っているのを読んだんですが、知性のように長持ちしてお金になるようなものだけを大事にするのは浅ましい、すぐ失われるような肉体の美しさをもっと大事にしても良いと思う、とかそんなような。 すぐ失われるから、とりあえず今を撮るみたいな感じです。だけど、これが理想ですよって提示している訳ではなくて、無くなるのが嫌だって言っているのに近いかもしれません。でも無くなるから良いとも言ってるんですよね。

SC:無くなるのは嫌だと思わせるような人(被写体)を撮っているんですよね?

MH:被写体の選び方とかその辺は好みだと思います。まわりの写真家が撮りたいと思う被写体でも、自分は全く撮りたくない時もありますし。モデル選びは重要です。

SC:みんなヌードになったりするのは、抵抗ないんですか?

MH:男の人は割と抵抗がないんじゃないですか。上半身だけとかだと特に。

SC:やっぱりヌードの方が撮りたいものが出来やすいんですよね?

MH:パーソナリティとかをなるべく無くしたいんです。パーソナリティが出ない方が良いし、Tシャツも白で良いし、服を着ていない方がより良いです。

SC:あと、写真の色味についても聞きたいんですけど。好みでああいった色味になるんですか?

MH:好みですね。だけど、現実感みたいなものはなくそうとしています。適正では生々し過ぎると思いますし。

SC:青味が強いんですかね?

MH:青緑かな?

SC:それに黄色が強い感じもありますよね?

MH:そうですね。青、緑、黄色、が強い。被写体によってその辺は調整していますね。

細倉真弓インタビュー写真03

SC:この先もこのまま作品を撮っていく感じですか?

MH:ちょっといまのシリーズは飽きているところもあります。ちょっとずつ新しいシリーズを撮っているような感じですね。

SC:例えば具体的に浮かんでるものってあるんですか?

MH:それは秘密です。(笑)撮ったけど、まだ寝かしてあります。今のものは今後も続けていくとしても、一度短期のプロジェクトをいくつかやりたいですね。

SC:次のシリーズも楽しみです。あとは今後の予定について聞かせてもらいたいんですけど。

MH:9月15日にオランダの現代写真雑誌「foam」タレント号に掲載。9月23日から、イタリアのローマでグループ展。10月13日からオランダのアムステルダムで「foam」タレント号のグループ展。今年の年末にG/P galleryで個展。その個展に併せて写真集出版という感じです。

SC:売れっ子ですね。

MH:実感はないですけどね。(笑)

2011年8月